日本の平等:日本は公平な社会と言われるがそれは真実だろうか? by ガーディアン

Equality in Japan: is this vision of a fairer society too good to be true? by The Guardian Tuesday 25 April 2017 06.00 BST

"日本の経営者は過度な収入を得ておらず国民の健康に関する統計も良い、ゆえに世界で最も平等な社会であると広く称賛されている。だがJustin McCurryの報告書よるとその平等主義は崩壊し始めているという。"

会社の敷地内に入るにつれて佐藤操の姿は他の従業員達に紛れその存在感を失っていく。東京湾の近くにある彼の会社の工場のフロアを抜き打ちで視察しても、従業員達が整列し盛大に迎えるといった風景は見られない。青い作業着姿の従業員は「株式会社きかんし」の社長に笑顔で会釈をするだけで直ぐに仕事に戻っていく。

株式会社きかんし は第二次世界大戦が終結した1年後に設立され、政治パンフレットの印刷事業により発展、年商数百万ポンドのビジネスに成長した。だがそんな会社であっても佐藤操氏は昼休みには社員と共に社員食堂で静かに食事を取っている。そして仕事が終われば満員電車に揺られ、東京の北東にあるベッドタウンに建てられた彼の妻と共有する控えめな家に戻るのだ。

佐藤操氏は日本の「控えめな」経営幹部を代表するような人物だ。 「社長室のドアは文字通りいつも開いています、経営陣と従業員の連携は非常に緊密です。私たちはグループとして何をすべきかを決める、トップダウンスタイルでやるのが好きではありません。私たちはそういう会社ではないのです。」と今年60歳を迎えた彼はそう言う。

佐藤操氏の報酬は同社の平等な取り組みが、単なる言葉や行動だけでない事を示している。彼の数十年にも及ぶ奉仕にもかかわらず、彼の給与は150人いる常勤スタッフの平均給与のわずか2倍程度であり、最も高い収入を得ている従業員のわずか1.2倍に過ぎない。

「実際には」彼は笑顔でこう言った。「残業を考えれば、私よりも多く家にお金を入れている人がいますよ。」

日本は平等な社会を実現できているのか?

佐藤操氏は極端な例と言えるかもしれないが、数々の研究が日本の企業文化の深いところで同じ平等主義的な倫理が働いている事を示している。

グローバルに事業展開をする欧州系投資銀行クレディ・スイスによる各国の富の分布を調査した最新の調査報告によると、日本は世界で最も公平な国であり、ロシアは最も不平等であるという。

日本人が持つ富は平均的に高く、相対的に見て平等であり、大人の資産がUS $ 10,000を下回ることはほとんどない。」と報告書は述べており、10万ドルを超える資産を持つ人口の割合は世界平均の7倍もあるという。

またグローバルコンサルティングファームのタワーズワトソンによると収益が1兆円を超える日本企業の最高経営責任者(CEO)の平均給与は、アメリカのCEOの10分の1であり、英国の5分の1以下であるという。日本の日経平均株価の平均を上回っている企業のCEOのほとんどは、1年に1億円以下の収入しか得ていない。

日本の富の分布はその人口の規模の大きさを考えればさらに印象的だ。スカンジナビア諸国は平等主義のモデルとして定期的に祀り上げられるがその人口は日本に比べて遥かに少ない。日本の人口は今後数十年で劇的に縮小すると予測されているとはいえ1億2,700万人もおり、スウェーデンは960万人、ノルウェーは508万人程度だ。

日本の戦後の経済発展は生活水準の上昇だけでなく様々な恩恵をこの国にもたらした。万人が加入できる健康保険や臨床転帰・予後の統計は世界で最も優れており、平均寿命も女性が87歳、男性が80歳と最高水準で、乳幼児死亡率は世界で最も低い。

そして国際的な英語力の比較においては低い成績であるが、日本の子どもたちの読み書き能力や算数力は世界をリードしている。

名高い経済学者や疫学者が世界の不平等に取り組むことの重要性を訴えている現在、日本はそのモデルになると思われるかもしれないが、その実日本の平等主義体系は崩壊し始めている。

急速な人口減少は65歳以上の人口の増加と相まって、解決困難な状況に陥ってしまっている。労働人口の減少にどう対処するのか、膨れ上がる社会保障費と医療費をどのようにして縮小するのか、日本政府は難しい対応を迫られている。

その一方で日本の若者の大部分は、彼らの親や祖父母が何の疑問も持たずに受け入れてきた伝統的な「安全だが抑圧的な」企業ルートを拒絶し、より自由度が高いが安全性ははるかに低い非正規雇用が多い労働市場を選択している。

彼らは 日本の平等な社会は言われるほど良いものではない と考えているのだろうか?

バブルが崩壊した時

戦後の日本では勤勉と自己犠牲は、人生をかけられる仕事、給与の上昇、賞与と年功序列に基づく昇進によって報われると考えられてきた。そしてそれは日本の富の分布が世界で最も公平と呼ばれるようになったルーツでもある。

だが1990年代初頭に日本の資産バブルが崩壊し、四半世紀に渡り日本経済は停滞期を迎え、日本の急激な経済発展を支えてきた忠実な「サラリーマン」は突然その恩恵を失う事になった。企業再編という名目の元で中年のサラリーマンの多くが余剰な労働力と見なされリストラされることとなり、失業率はほぼ6%に上昇、自殺率は年に3万人を超えた。この数字は世界で最も高いレベルだ。

ただその様な最悪の景気後退を迎えても、英国のような国々で深刻な社会的亀裂を生み出すことになった社会不安や大量失業は起きず、思慮に欠ける緊縮財政も行われる事はなかった。

2009年には日本経済だけでなく世界が戦後最悪の不況を迎えたが、日本の犯罪率は低水準を維持し社会的結束度も高いままであり、一部の有識者の中には社会不安が増大し格差の広がりが顕著になった欧米と比較し、果たして日本の景気後退について話すことが適切なのかと疑問に思う人もいた。

暴力犯罪は日本の大都市の通りではまれであり、金曜日の夕方にはレストランやバーには服装の良いオフィスワーカーで溢れている。バブル崩壊後の企業再編の時代でさえ失業率は比較的低いままで、2017年2月には過去20年で最低水準となる2.8%だった。

しかしその一方で生涯雇用の概念は急速に退いている。ミレニアル世代(1980~2000年代初頭に生まれた世代の総称)と(2015年に非正規労働者の68%を占めた)女性はキャリアエスカレーターに乗るのを避け、あるいは乗りたくても乗れずに、正規雇用の従業員よりも遥かに低い給料水準で多くの分野でパートタイムまたは臨時の仕事をしている。

最新のOECDの日本経済に対する調査によると、業種と教育レベルを考慮した結果、フルタイムとパートタイムの賃金格差は男性45%、女性31%となっている。また1人の収入で暮らす世帯の稼ぎ手が非正規の従業員である場合、貧困になる可能性は7倍高くなるという。

しかし非正規雇用市場が提供する低賃金と貧困環境は誰にとっても魅力的な選択肢ではないが、日本の企業の足かせを解消する方法を求める労働者は増え続けているという。

働き過ぎによる死:過労死

昨年最も日本を騒がせた国内ニュースは間違いなく大手広告代理店の電通に勤務していた24歳の高橋まつり氏の自殺に対し労働基準局が過労死と認める判決を出した事件だろう。彼女は死に至るまでの間に月に105時間の時間外労働をしていた。

そして従業員を追い込む企業は電通だけではない。労働基準局の判決を受けて日本のメディアは社員の健康と福利を犠牲に利益を上げてきた企業を告発していった。

昨年発表された過労死に関する最初の白書で、政府は献身と自己犠牲を強いる支配的な企業文化によって犠牲になる人が増えている事を確認し、日本人労働者の5人に1人が過剰労働の危険にさらされていると警告した。

また報告書によると日本の従業員の約21.3%が毎週平均49時間以上働いており、その数字は米国の16.4%、英国の12.5%、フランスの10.4%を大きく上回っているという。

高橋まつり氏の事件を受けて国民は抗議の声を上げるようになり、対応せざるを得ない状況に追い込まれた政府は残業上限を月100時間未満にするよう経団連と連合に要請することになった。だが一部の批評家はこの問題に対処するためにはその程度では十分ではないと指摘している。

戦後には組合員が役職を経て上昇し経営陣を務めることで富は日本全体に均等に配分されていた。だが今では従業員は会社の所有物と見なされるようになってしまった。不景気には給与を引き下げられ、過労死問題が証明するように過酷な長時間労働を強いられるようになった。

最近では緩やかにしか上昇しないキャリアや退職時にそこそこの生活水準しか期待できないことが、そのような犠牲に対して十分な報酬とは考えられなくなってきている。

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イトウ・ヒロユキ氏は他の40代のサラリーマン同様に大学卒業後直ぐに就職した会社で一生勤める事になるのだろうと考えていたが、2年前に突然大手食品メーカーの営業担当者として仕事を辞めることになった。

「私はもうこの企業で自分のキャリアを積みつつけることに嫌気が差してしまいました。ただ忙しかったので他に何ができるか考える時間を見つけることができませんでした。だから私はギャンブルをして、別の仕事を見つける前に仕事を辞めたのです。」

47歳の彼は退職後の6ヶ月間を妻と3人の子供と共に旅行に行くなどして過ごし、その後コンサルタント業の新興企業で正規社員として働く事になった。

「私は今まで通り会社に身をゆだね彼らに自分の将来を決めさせるか、チャンスを取って自分自身で決めるか、決断を下さなければななりませんでした。日本では優秀な大学に通い、有名な会社に就職すれば、自分の人生が成功したと思う傾向があります。

しかし私は安定性を優先するがあまり、自分が本当に楽しめる仕事をしていないのではないか、そういった考えが常に頭の中にちらついていました。今の仕事はかつてほどの稼ぎはありませんが、同時に私の人生は完全にストレスから解放されています。

彼は東京の社会人材学舎の再訓練コースに参加して転職を完了した。ここには約150人の現状に不満を抱いていた従業員、その3分の2は男性、が元の職場で果たせなかった夢を追求しようとしている。

「従業員は50代後半になる頃には何らかの分野で専門家になりますがそれ以外のことが分からなくなってしまう。そして60歳になると突然給料が減り、退職を考えるようになるのです。」

40代だった4年前に広告代理店幹部としての仕事を辞職した後、この会社を設立した小澤 松彦氏はそう語る。「それは信じられないほどのストレスを与える可能性があります。」

綱渡りを歩く

ワタナベ・テルコ氏は57歳を迎えた今、転職などとても考えられないと笑いながら答えた。コンビニエンスストアやレストランから自動車工場や事務所にいたるまでのすべての店舗で契約社員が増加する中、自分もその一人だった彼女は日本の労働市場の新しく、そして同時に問題を抱えた動態を象徴している存在だ。

「私が正規社員になれなかった理由は私や他の派遣労働者がいなくてはならない存在ではなかったからです。」とエネルギー会社で3ヶ月ごとに契約を繰り返し18年間働いた彼女は答えた。

「私たちは企業と経済の厳しい時代の間にある緩衝材のような存在ですから。」

彼女の2人の子供は成人を迎え家を出て行ったが、今は痴呆に苦しむ彼女の87歳の母親を見続けながら仕事を続けなければならないでいる。東京都西部にある彼女の自宅は賃貸ではないが、食費、通勤費、公共料金、母親のケアにかかる費用を払うと彼女の月20万円を少し上回る程度の収入から残るお金は僅かだ。

「それでも私は何とか生きていけてます。私は幸いな方で、実際私よりはるかに大変な状況の派遣労働者がたくさんいます。」と彼女は言う。

2000年代初めの景気低迷の中で安い労働力の供給源とみなされていた契約社員やその他の非正規労働者は現在、日本の労働力の約40%を占めている。

彼らの賃金は、特に若者の間では正規社員のそれをはるかに下回っている。専門家は日本の労働市場は2層化しており、それは世界で最も豊かな国の1つである日本の貧困層の増加に寄与していると指摘する。

日本の子供の350万人、17歳まで子供のうち6人に1人が「相対的貧困」状態を経験している世帯で育っている。(OECDの定義によると国民の可処分所得の中央値の半分以下の所得を持つ世帯)日本の相対的貧困率は過去30年間で16.3%に上昇、米国では17.3%とそれより高い水準だがその数字は減少している。

「非正規雇用の人を気楽で羨ましいと言う人もいるでしょう。実際責任は少ないかもしれませんが不安定で保障などないのです。」とワタナベ氏は言う。

日本の首相である安倍晋三は生産性と消費支出を上げるために、正規雇用者と非正規雇用者の給与と賃金の格差を縮小することを約束した。しかしこれまでのところ企業は大幅な賃上げの要求に耳を傾けていない。

平等な社会について日本が世界に教える事が出来る事があるという提言に彼女はいら立ちを隠せないという。

私は綱渡りをしているような気がしています。病気になったり、他の理由で仕事を失ったりすれば、私はすぐに落ちるでしょう。そして私を捕まえるためのセーフティーネットはおそらくないと思います。」

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海外の反応

The Guardianのコメント欄より: ソース

Seema Johnson 同質の社会はまだ平等な社会を保つ事が容易だ、より多文化的な社会になればなるほど不平等に向かう傾向にある。それは新しく移って来た人たちは富や社会資本を世代を超えて築くということが出来ていないからだ。

Trumbledon 日本のこの問題は他の多くの主要先進国でも起きていて、それは人口の変化、特に高齢化に起因している。

面白いことにこのような人口動態の変化に直面してなお日本は非常に厳格な移民政策を維持している。一方で英国のような国では毎年何十万人もの外国人労働者を受け入れることで人口バランスを取っているがそれを多くの人がポンジ・スキーム(階層的なシステムに依らないネズミ講)の一種と考えている。

日本が上手くやれるかを見るのは魅力的だ。ロボットとオートメーションの登場に伴い、新しい種類の社会に導いてくれる、そんな最良の場所になることを期待しているよ。人口が徐々に自然に減少し、その失われた労働力を機械が補うような方向に向かうだろうと予想している。

ID3412175 この話のもう一つの側面は、国の財産が地理的に分散されているという所だ。東京という中心はあるが大阪や広島、神戸、仙台、札幌などの地方に資本が分布している。

どの駅も一般的に、文化、公立公園、良い学校、良い大学、良い病院などへのアクセスを備えた快適でよく管理された都市がある。

CEOが他の従業員よりも大規模な収入を得ていないのと同じように、国家の富はほとんどの財産がロンドンを通って流通している英国よりもはるかに均等に分散しているように見える。

日本のモデルは、私たち欧米の社会がどのように不平等であるかを鮮やかに示していると思うよ。

borninthe80s 繁栄のためにはスキルのない移民を受け入れるべきではないっていうのがはっきりと分かるな。

Bionicflan それは業界や状況によって違ってくると思うぞ。例えば若者がすべて都市に移住してしまった過疎化した海辺の町なんかでは高齢者の世話をするために移民が必要になるかもしれん。

ThinBanker でも日本の根本的な問題は、納税者や年金を支える人口が減っていることだからねぇ。すでに甚だしい債務問題をさらに悪化させることになる。

amrinadeol 面白い読み物だった。日本くらい格差の少ない国でも所得格差を本当に気にしているってのはとても興味深かった。

anon_y_moose 記事で説明されているように確かに日本の格差は少なかったが現在、それは変化していて、しかも高速だ。それとこの記事を読む限り日本人男性の所得不平等だけに焦点が当てられているのが気になる。

日本の労働市場が非正規雇用が多い労働市場に急速に変化しているということは標準的な給与職がどんどん減っていくってことで、そんな中で女性や外国人はどうなっていくのだろう?

Salaryman Tokyo Station by Jorge Gonzalez is licensed under CC BY 2.0