女性と脱毛の戦い、それに払ってきた犠牲。

The Casualties of Women's War on Body Hair by The Atlantic - Feb 8, 2017

私にも毛深くない時期というものがあった筈だがそれがいつの事だったかもう覚えていない。 中学生の頃、医者は私の下あご近くまで生えたもみあげを見て毛の成長を遅らせる薬を飲むよう提案してきたのを覚えている。彼女はその薬は私のように顔の毛が多い人のためのものだと言っていた。

小さい頃よく足に生えた黒い毛をうっとりした状態で観察していたのを思い出す。母はそんな体毛を抜くのにシュガーワックスを使っていて、なぜそんな事をするのかと質問する私に「Beauty is pain.(美しさに痛みはつきものなのよ)」とアラビア語の諺をもって答えていた。

定期的な脱毛は世界中で行われておりアメリカの女性の99%以上が自発的に体毛を除去する。それはとてもお金のかかる行為でシェービングするアメリカの女性は10,000ドル以上を、ワックスを掛ける女性は23,000ドル以上を一生のうちに費やすという。

これらの習慣は人種、民族、地域を跨ぎ行われているがそれは比較的最近の習慣だ。 ネイティブアメリカン以外のアメリカ人、主に白人のアメリカ人女性が体毛を気にし始めたのは1800年代後半になってからである。

実際Rebecca Herzig氏が著書「Plucked: A History of Hair Removal(脱毛の歴史)」で説明しているように、イギリスの植民者たちは最初に上陸したときに髭のないネイティブアメリカンを見て驚き、困惑し、彼らの習慣を奇妙な執着によるものだと考えていたという。

ではどのようにして1世紀も経たないうちに、毛のない不自然な状態がアメリカの女性の基準となったのだろうか?

体毛に対する意識の変化

The Descent of Man「人間の進化と性淘汰」 infocobuildより引用 女性の体毛を否定するキャンペーンはチャールズ・ダーウィンが1871年に書いた本「人間の進化と性淘汰」に始まるとRebecca Herzig氏は述べている。

彼は人種間の違い、物理的な外観の中でも特に髪の種類と成長の人種的な差異に執着しており、これらの知見が出版社などから一般に公開され、アメリカの大衆の間に浸透した。

ダーウィンの進化論は体の毛を競争と淘汰、自然選択の問題に変化させた、毛深いという事が病理化されたのだ。進化論の考えは体毛を 「原始的な」祖先とその早期の「あまり発達していない」形態への先祖がえりに結び付けることになったとRebecca Herzig氏は述べている。体毛の濃さは体の健康の問題になってしまった。

この進化論の枠組みにおける重要な特徴は、男性の体毛は毛深く、女性の体毛は薄いのが自然な状態であると考えられていたことにある。

性淘汰
ヒトにおける例: ダーウィンはヒトの男性の髭や、他の哺乳類に比べヒトの体毛が少ない点なども性淘汰によって進化したと考えた。女性は男性よりも体毛がさらに少ない事から、有史はるか前には男性の側に選択権があったと考え、また「体毛が少ない事」が男性による性選択の対象になったと考えたのである。 wikipedia


科学者たちは男性性と女性性の明確な違いが人種における「人類学的発展具合」を示していると推測していたのだ。よって女性の毛深さは異常さを示す指標になり、研究者はそれを証明しようとし始めた。

Rebecca Herzig氏は著書の中で1893年に行われた研究を紹介している。これは精神病を患った白人女性271例を調査し、通常よりも顔に生える毛の量が多い女性は少ない女性よりも精神病にかかりやすいと結論付けたものだった。

イギリス生まれの医師であり性科学者でもあったハヴロック・エリスは 精神病を患った毛深い白人女性は一般的な女性よりもより密度が濃く硬い毛をしており、それは早期の「あまり発達していない」ヒトにより近い存在であり、この種の毛が生える女性は犯罪的暴力、強い性的本能、そして強い動物性と関連していると主張した。

より美しい肌を手に入れるために

1900年代初頭には体毛はアメリカ人女性の深刻な悩みの種になっていた。彼女らは滑らかで清潔感のある白い肌を欲し、より女性らしい身体を望むようになっていた。

Rebecca Herzig氏は著書の中でこう述べている 「非常に短い期間で体毛は中産階級のアメリカ人女性にとって嫌悪すべき存在になった。その除去は下層階級や移民、粗雑な人々から自分自身を切り離す方法になっていたのだ

時代と共にスカートやドレスの裾は短くなり、それによって肢を露出する機会が増えた女性は毛を取り除くために極端な対策を講じ始める。

1920年代と30年代には女性は軽石や紙やすりを使用して脱毛していたが炎症やかゆみを引き起こす原因となった。また一部の女性は改造した製靴業者のワックスで脱毛を試みた。

ネズミ駆除用の毒性を持つ酢酸タリウムから作られたクリームKoremluを使う人もいたがそれによって数千人が身体的障害を患うことになる。それは体毛を除去する効果があったものの筋肉萎縮、失明、四肢の損傷を引き起こし中には命を落とす人もいた。

同じ時期に別の脱毛法としてX線脱毛が出現、女性は箱型のX線装置に3〜4分間座り目に見えない放射線によって体毛を除去した。それほどに体毛のない肢は女性にとって魅力があり、約20年の間、女性は瘢痕、潰瘍、癌につながる危険な放射線を受け続けていた。

第二次世界大戦中には女性が毛むくじゃらの足を覆うために履いていた厚めのストッキングが不足し、それまで男性の習慣と関連付けられていたシェービングが女性の一般的な習慣になった。

1964年になるころにはアメリカの女性の98%が日常的に肢の毛を剃るようになっていたが、その間も新たな脱毛手段は研究所や医師の手により増え続けていった。

1960年代と70年代には体毛が異常に多くなる多毛症の女性にアルダクトンとアンドロクールというホルモン剤、現在は男性から女性への性転換に使用されている薬を処方し始める。だがこのホルモン療法には癌、脳卒中、および心臓発作を引き起こす副作用があり、その体毛の成長を抑制する効果も一貫性があるとはいえないものだった。

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現在も女性は脱毛のために依然として危険性があり、時間がかかり、肌を傷つける行為をしている。レーザー脱毛は、重度のやけど、水疱、および瘢痕を引き起こす可能性があり、脱毛ワックスは強い痛みが伴い、また非衛生的だ。ブリーチングは肌を炎症させ時に肌が変色することもある。

世界最大規模の英語圏の電子掲示板RedditにはNairという除毛剤で性器を火傷した場合どの様に対処すべきか語り合う専用のスレッドまで存在し、ほとんどの化粧品がそうであるように、これらの製品はほとんど規制されていない。

脱毛とは女性に特徴的な社会統制の一形態である

脱毛とは女性に特徴的な社会統制の一形態と呼んでいいのかもしれない。Rebecca Herzig氏はそんな女性の体毛を無くさなければならないと思うプレッシャーが、女性の自由と並行して高まってきたことを偶然ではないと主張している。

Rebecca氏は体毛を無くさなければならないという規範は、体毛が生えている状態を「不十分で脆弱」であると感じることに、女性の身体は始めから問題を抱えているとの感覚を生み出すことに繋がっていると述べている。

それにもかかわらずなぜ自発的にシェービングやワックスをしたのかと女性に尋ねれば、多く人が自己高揚のためだと答えるだろう。それは彼女らが望むことであり、個人的な選択であり、毛のないスムーズな肌であれば気分が良くなると。

脱毛はセルフケアのためだというのは、その実女性が渋々受け入れた最大の嘘の一つと言えるのかもしれない。だが例え不本意であるとの自覚を持ったとしても、私たち女性はビロードのように滑らかなの手足と道徳的な美徳とも言える清潔感のある肌を追求してしまう。

数年前、私はもみあげ、脇の下、背中、お腹、首の後ろ、そして顎の下をレーザーで脱毛した。毛が肌から突き出る前の毛包もレーザーで処理した。それは痛みを伴うものだった。だがその痛みには価値がある、私たち女性はそう教え込まれてきたのだ。

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海外の反応

theatlantic.comのコメント欄より: ソース

Yeah... 脱毛が女性に特徴的な社会統制の一形態といわれてもピンとこないんだけど。

citoyennebrett 社会統制は必ずしも意図的または悪意のあるものとは限らない。これらの現象はしばしば時間の経過と共にゆっくりと人々に伝達されていく。社会統制の1つの側面としてあげられるのは社会にカテゴリと境界を確立し「その他」の人々を除外することだ。

それは男女の役割を決める大きなシステムの一部で、男性はそれに乗っ取った見た目や行動や特定の話し方をし、女性は別のそれをする。

私たちはこれらのことを受け入れる傾向があるが、この記事の体毛のケースのように、それはしばしな人工的に構成される。

Assistantref 記事はアラビア語の諺から始まっているが、アラブ/イスラムの衛生基準では伝統的に男性と女性の両方が体毛を処理するという事実に言及していない、それにちょっと違和感を感じる。そして男性もまた、女性より定期的にシェービングしているという事実も省かれている。

これらの点が女性の体毛処理は西洋の女性を下に見る家父長制家族社会に影響されてきたとの主張を少し弱めてしまっているかな。

LFM Assistantref そうだね、 欧米だけ見ればこの話は筋が通ってるけど実際には中東や南アジアの女性は何世紀にもわたって大々的な脱毛を実践してきたし。ただそれらは欧米の脱毛が社会的および政治的自由と結びついていたのと違っているけど。

南ヨーロッパの地域では毛の処理は「セックスワーカー」のマークであると考えられていて淑女がすべきこととは考えられていなかったことなど、 地域によって脱毛に関する見解が違っていることも言及して欲しかったね。

citoyennebrett ジェンダーに関する社会規範ってのは地域や文化で変わってくるってのは当然だ。この記事の場合は19世紀から現在までの欧米(主に北米)の社会について明確に話しているわけだし、その文脈の中でそれらを分析するのは理にかなっていると思うぞ。

Tybalt_King_of_Cats 大学で出会ったイラン人が言ってたけど彼らは首から下の毛を剃るらしい、なんかそうすることが砂漠地帯では快適なんだとか。

Stoned Immaculate 陰毛に関しちゃ生えていた方がセクシーだろ。私の彼女が陰毛を形良く処理したり全部処理した時はそりゃいいと思ったさ、最初のうちはね。でもだんだん成熟した女性に見えなくなってきた。あんなのタトゥーと同じでただの流行の一部にすぎないよ。

Martin Shkreli Trump 個人的にはどちらも好き、ただ処理すると8時間もしなうちに互いのを擦り合わせるのが辛くなるのよね。

Darby42164 陰毛除去に関してはより最近のことだと思う。1970年頃には陰毛のない女性を見つけることは稀だったし聞いたこともなかった。

compass96 なぜ体毛を処理するのか、その理由は千差万別であり無数の女性の意見が脇に寄せられていることに苛立ちを感じる。勝手に決め付けないで欲しい。

EWorthing 年をとると望む場所(私の頭の上)の毛は減り、望まない場所(鼻、耳、首)の毛は増える。毛抜きによる脱毛とトリミング、シェービングの日々だ。この年になると正直悪臭を放つようなことさえしなければ見た目などどうでもいいのではないかと考える事もあるが、世捨て人のように思われるのも嫌だし、そうする事がスタンダードな以上しないわけにもいかない。

女性は髪や体毛の手入れ、ファッションなどに常に男とは比べ物にならない重い負担を背負ってきたわけだが、この記事を読んでその苦労と歴史がより理解できたよ。

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“Legs” by Stein Magne Bjørklund is licensed under CC BY 2.0